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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)1460号 判決 1972年11月02日

原告 富国物産株式会社

右代表者代表取締役 薛国

右訴訟代理人弁護士 劉増銓

被告 小平謙一

被告 徳武昇

右訴訟代理人弁護士 鈴木喜三郎

主文

一  被告小平は、原告に対し、別紙目録記載(一)の土地について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続および別紙目録記載(二)の土地について、真正な登記名義の回復を原因とする仮登記の停止条件付所有権移転付記登記手続をせよ。

二  原告の被告徳武昇に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告小平との間においては、原告に生じた費用の二分の一を被告小平の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告徳武との間においては全部原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告徳武は、

別紙目録記載(一)の土地についてなされた横浜地方法務局相模原出張所昭和四五年一二月一六日受付第六六一三九号の所有権移転登記、および別紙目録記載(二)の土地についてなされた同法務局同出張所昭和四五年一二月二四日受付第六八一六三号仮登記の停止条件付所有権移転付記登記の各抹消登記手続をせよ。

2  被告小平は、原告に対し、

別紙目録記載(一)の土地について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続および別紙目録記載(二)の土地について、真正な登記名義の回復を原因とする仮登記の停止条件付所有権移転付記登記手続をせよ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら)

1 原告の請求はいずれもこれを棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外国(大蔵省)は、別紙目録記載(一)の土地(以下本件土地(一)という)を所有していた。

2  原告は、右大蔵省から、昭和四四年一月三〇日に、右土地を買い受けた。

3  しかるに本件土地(一)には、横浜地方法務局相模原出張所昭和四四年三月一三日受付第一〇五一九号、原因を売買とする右大蔵省より被告小平に対する所有権移転登記がなされており、さらに同法務局同出張所昭和四五年一二月一六日受付第六六一三九号、原因を売買とする被告小平より被告徳武に対する所有権移転登記がなされている。

4  訴外河井清作は、別紙目録記載(二)の土地(以下本件土地(二)という)を所有していた。

5  原告は、右河井から昭和三七年一二月八日に、右土地について、農地法第五条の許可を停止条件として買受ける旨の約定をなし、停止条件付所有権移転仮登記をなした。

6  しかるに、本件土地(二)には、横浜地方法務局相模原出張所昭和四二年一二月一二日受付第四九一〇九号原因を譲渡とする原告より被告小平に対する仮登記の停止条件付所有権移転付記登記がなされており、さらに同法務局同出張所昭和四五年一二月二四日受付第六八一六三号、原因を譲渡とする被告小平より被告徳武に対する仮登記の停止条件付所有権移転付記登記がなされている。

7  よって、原告は、本件土地(一)の所有権に基づき、被告徳武に対して同土地(一)につきなされている同被告名義の所有権移転登記の抹消登記手続および本件土地(二)の停止条件付所有権に基づき同土地(二)につきなされている同被告名義の仮登記の停止条件付所有権移転付記登記の各抹消登記手続を、被告小平に対しては、本件土地(一)の所有権に基づき、同土地(一)につき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続および本件土地(二)についての停止条件付所有権に基づき、抹消登記にかえ真正な登記名義の回復を原因とする仮登記の停止条件付所有権移転付記登記手続を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

(被告徳武)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は否認する。

3 同3ないし6の事実は認める。

4 同7の事実は争う。

(被告小平)

1 請求原因1の事実は知らない。

2 同2の事実は否認する。

3 同3ないし6の事実は認める。

4 同7の事実は争う。

三  抗弁(被告徳武)

1(一)  被告小平は、原告から昭和四四年三月一三日に、本件土地(一)を譲り受けた。

(二)  被告小平は、原告から、昭和四二年一二月一二日に、本件土地(二)につき農地法第五条の許可を停止条件として買い受ける、買主としての地位(以下本件土地(二)の地位という)を譲り受けた。

(三)(1)  被告小平は、被告徳武に対して、昭和三九年二月三日ころ、左の土地を売る約定をなした。(農地法第五条の許可を受けることを停止条件とする契約であったが、その後その許可があった)

千葉県船橋市古和釜七四六番地の内畑 四〇坪(一三二・二三平方メートル)

(2) 被告徳武と被告小平とは、昭和四五年一二月一五日に、右土地の所有権移転登記および引渡が昭和四六年一月末日までに履行されないときは、本件土地(一)の所有権および本件土地(二)の地位を、右給付に代えて、被告徳武が譲り受ける旨の約定をなした。

(3) 被告徳武は、被告小平から、右約定に従い、本件土地(一)の所有権および本件土地(二)の地位を譲り受けた。

2(一)  原告は、被告小平を原告の代理人として、被告徳武に対して、昭和四五年一二月一六日に、本件土地(一)の所有権および本件土地(二)の地位を譲り渡した。

(二)  被告小平に右代理権がなかったとしても、被告小平は、原告会社の相模原大野営業所の主任として、本件各土地につき、固定資産税等の納税、土地の管理、処分等についての代理権があった。そして同人は右代理権存続中(又はその消滅後)その権限を踰越して被告徳武に右各権利を譲渡した。被告徳武は被告小平に右各権利を譲渡する権限があると信じたものであり、かくに信ずるにつき正当の事由がある。

3  原告は、本件土地(一)および本件土地(二)について、被告小平の所有名義にしたまま、長い間放置しており、被告徳武が右各土地を右小平から譲り受けるに及ぶと、原告所有の土地であると主張するのは、信義に反し、権利の濫用である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)および1(二)の事実は否認する。

2  抗弁1(三)の(1)、(2)および(3)の事実は知らない。

3  抗弁2(一)および2(二)の事実は否認する。但し被告小平が原告会社の相模原大野営業所の主任であったことは認める。

4  抗弁3の事実は否認する。

五  再抗弁(抗弁1に対し)

本件土地(一)および本件土地(二)の地位譲渡契約は、原告と被告小平とが、通謀のうえ、被告小平に譲り渡したように仮装したものである。

六  再抗弁に対する認否

否認する。

七  再々抗弁

仮に、原告と被告小平との間の本件各土地譲渡契約が右両者の通謀による仮装のものとしても、被告徳武はそのことを知らずに右被告小平から、本件各土地を譲り受けた。

八  再々抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因1の事実は、原告と被告徳武間では争いがなく、原告と被告小平間では≪証拠省略≫によりこれを認める。

二  請求原因2の事実は、≪証拠省略≫を総合してこれを認める。

三  請求原因3ないし6の事実は当事者間に争いがない。

四  そして被告小平の右各登記について同被告が右登記に符合する実質的権利を有していた点についてはこれを認めるに足る証拠がない。

以上によると、本件土地(一)の所有権及び本件土地(二)の仮登記による停止条件付所有権はいずれも原告に帰属し、被告小平は右各土地について、これらの権利を有しないのに、被告小平名義に本件土地(一)について所有権移転登記、本件土地(二)について仮登記の停止条件付所有権移転付記登記をしているものというべきであるから、被告小平はその登記名義を右真実の権利関係に合致させる登記上の義務があるものといわねばならない。もっとも原告は本件土地(一)の真実の所有権者であるから、その所有権に基づき、形式上登記名義を有する者に対し、同登記の抹消を請求する権利を有することが明らかであるが、原告は本件土地(二)については単に仮登記を有するに過ぎず、所有権者の如き目的物についての妨害排除請求権を有しない。しかしながら仮登記といえども、真実の権利関係を登記簿上正当に表示する必要があることは公示制度上当然であって、その意味において所有権と同様真実の権利関係に合致しない仮登記移転の付記登記があるときは、仮登記権利者はその権利に基づいて右権利関係に符合しない付記登記の抹消登記請求権を有するものというべきである。そして原告は右真実の権利関係に符合させる方法として被告小平名義の各登記の抹消登記にかえ各登記の移転登記を求めているが、かかる方法もまた公示方法として許されるものと解されるから、結局原告の被告小平に対する請求は全部正当である。

五  そこで被告徳武の抗弁につき判断する。

≪証拠省略≫を総合すると原告会社は、不動産の売買、宅地造成等の業務を目的とする会社であるところ、原告は、分譲地として売出す目的のもとに、昭和三七年一二月八日本件土地(二)を訴外河井清作より、県知事の許可を得ることを条件として買受けたが、同土地に接続して大蔵省所有の本件土地(一)があり、宅地造成のためには、この土地も原告において取得する必要があったこと、そこで原告は本件土地(一)の払下手続の円滑化を図る目的のもとに、便宜上本件土地(二)の買受人名義を個人名義にし、その個人名義で払下を受けるべく原告会社の社員であった被告小平と通謀し、まず本件土地(二)の買主としての地位を被告小平に譲渡し、更に同土地につき原告名義になされていた仮登記について被告小平のために、停止条件付所有権移転付記登記をなし、ついで被告小平名義で大蔵省に対し本件土地(一)の払下申請をし代金は原告が負担し、被告小平名義で払下を受け、その結果本件土地(一)について大蔵省より被告小平名義に所有権移転登記がなされたこと等の事実が認められる。

≪証拠判断省略≫

右事実によると、原告より被告小平に対する本件土地(二)についての停止条件付所有権譲渡契約は原告と被告小平間の通謀による虚偽表示であって無効のものである。また本件土地(一)の所有権は実質上原告に帰属するが、払下手続の便宜のため被告小平名義に所有権移転登記を得させたものであって、被告小平は同土地について所有権を主張し得ないものであるところ、かかる趣旨を内容とする本件土地(一)についての原告と被告小平間の合意も通謀による虚偽表示であるといわねばならない。

しかしながら、≪証拠省略≫を総合すると、被告小平は、原告との間の通謀虚偽表示に基づき、本件各土地について前記の如き権利を取得したにも拘らず、右事実を秘して抗弁1(三)(1)ないし(3)記載の如く右各権利を被告徳武に譲渡したこと、そのため被告徳武は右各土地についての権利が被告小平に帰属するものと信じ、前記認定の如き通謀の事実を知らずに右各権利を譲受け、本件各土地について被告徳武名義に本件各登記を受けたこと等の事実が認められる。≪証拠判断省略≫

以上の認定によると、被告徳武は、原告と被告小平間の前記本件各土地についての通謀虚偽表示に関し善意の第三者というべく、原告は右虚偽表示の無効をもって被告徳武に対抗することができないものといわねばならない。

すると原告の被告徳武に対する請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由のないことが明らかである。

六  以上により原告の被告小平に対する請求を正当として認容し、被告徳武に対する請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井上孝一)

<以下省略>

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